データマネジメントは「目的」にあらず

新年あけましておめでとうございます。
本年もどうぞ宜しくお願いします。

このブログをきちんと読んでいただけるような方々はデータに対して非常に感度の高い皆さまであり、何がしかの形で自社内やお客様のデータマネジメントの取り組みに関与されていることと思います。
そんな皆さまであれば、昨今の世の中の「経営資源としてデータの価値を高めたい」、「そのためにデータを全社横断的に取り扱う組織を組成したい」、「積極的なデータ活用のためにも、データガバナンスの仕組みやルールを構築したい」といったニーズの高まりを実感されているではないでしょうか。
私自身もそうした時代の潮流をひしひしと肌で感じている一人ですが、一方で、ここ数年で「データマネジメントに取り組んだが、実際にはデータ活用がうまくいかなかった」という企業が増殖し、日本のデータ活用の機運が停滞化してしまうのではないかと危惧しています。

その理由はなぜか?-「データマネジメントに取り組んだ」といってもデータマネジメントや活用を支援するためのツールの導入や環境の構築に留まってしまい、ビジネスでの成果を実際に創出するところまで辿り着かないケースが多いのではないかと感じるからです。
データやメタデータの品質をいかに高めたとしても、ビジネスの現場でそれが使われない限り、まったく効果を生み出しません。
せっかく始めたデータマネジメントの活動も一過性の「プロジェクト」で終わってしまい、中長期な「プログラム」として経営層から認めらず、データ活用が組織に定着化せずに頓挫してしまう、そんな近未来が予見されるので、私は強い憂慮を抱いているのです。

こうした落とし穴に陥らないようにするためには何に気をつけなければならないか。
私自身の長年の経験から留意すべきポイントを3つ挙げます。

  • ツール導入がゴールではなく、ビジネスでデータを活用して成果を出すことが目的であることを忘れないこと。
  • そのために、データマネジメントの取り組みに対してビジネスにおけるデータ活用者の積極的な関与を必須とすること。

  • いきなり手当たり次第に社内の様々な厳選システムからデータを集めてきても、そのままでは誰も使えないと認識すること。
  • ある程度ニーズが確信できるビジネスシーンに対して実行し、まず小さくても活用の成果を出し、共感を得つつ展開すること。

  • すべて自社内のIT部門だけで課題解決を試みるのではなく、ユーザー部門や関連部門を巻き込むこと。
  • 外部のプロフェッショナルやDAMA/JDMC等の中立的団体の仲間たちに相談するなど、知見やノウハウを広く集めること。

なお、私が代表を務める「株式会社リアライズ」は、2023年1月1日より、「NTTデータバリュー・エンジニア」に社名を改めます。
その真意はまさに「データの価値を高めること(エンジニアリング)を通じてお客様のビジネスに貢献するプロフェッショナルでありたい」という意志表明を内外に示すためであり、これまでご提供してきた「活用できるデータへの整備支援やデータカタログ/データガバナンスの構築支援」に加え、さらにデータの価値向上をビジネス成果に直結させるために「データ分析・活用」の領域へと事業を広げ、これからもお客様と一緒に『データで創る一歩先の未来』を愚直に追い求めてまいりたいと考えております。
もしデータマネジメント/活用の領域で何かお悩みのことがありましたら、お気軽にご相談いただけたら幸いです。

少し宣伝も入ってしまい恐縮ですが、新たな社名のお知らせを兼ねて、新年のブログを綴りました。
今後ともどうぞ宜しくお願いいたします。

DAMA日本支部 渉外担当理事
日本データマネジメント・コンソーシアム[JDMC] 発起人 兼 事務局長
(株)NTTデータバリュー・エンジニア[旧:(株)リアライズ] 代表取締役社長
大 西 浩 史

統計に係る問題発生の根本原因について

年末に発覚した国交省での「建設工事受注動態統計」におけるデータ改竄事件が世間を騒がせました。
以下が主要紙で取り上げられている統計不正に関する記事です。

(産経新聞)
・国交省の統計不正 信用裏切った罪は大きい(2022年1月21日)
https://www.sankei.com/article/20220121-5XQH3MFRINLZJPE6G5H27ECVNI/

(日経クロステック)
・統計不正で国交省が次官ら10人処分、総務省も次官ら7人(2022年1月25日)
https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/00142/01194/

(朝日新聞デジタル)
・GDP、国交省の統計不正の影響は「不明」 元データ修正待って判断(2022年2月15日)
https://www.asahi.com/articles/ASQ2H436MQ28ULFA026.html

今回のようにデータを生成する過程で意図的に操作されてしまうと、ソースデータから統計表にアウトプットするまでのデータを完璧に記録し、誰がいつどのようにデータを編集したかの証跡を徹底的に記録しない限り検知することは不可能です。
「毎月勤労統計」に端を発してメディアを賑わせた2019年当時の「統計不正」が注目された際に、私は民間のデータマネジメントの有識者として点検検証部会の委員として招聘され、「紙の調査票を回答者から回収し、紙の統計表を出力すること」を前提とした統計の古い思想から、「過去の回答結果データを呼び出し、変更点だけを修正して簡単に回答できるような、回答者にとって、それを審査する行政機関にとっても快適的な、マスターデータを中心とした新たなデジタル統計の姿を目指すべき」と何度も何度も主張してきました。

https://www.realize-corp.jp/news/20190308

今回の原因はまだまだ氷山の一角であり、毎月勤労統計のように「拡大推計し忘れて、それを長年放置してきた」といったケアレスミスに基づくものや調査回収率が悪いのを良く見せるため、実際には調査していないが、分母を増やして類似データを登録する、といった意図的なもの(※調査の主管課の職員たちにもそんなに悪気がある訳ではない)が何度点検検証部会を開催しても根絶は不可能であろうと考えています。

なぜ、そうなってしまうのか・・・
私はものすごく有益な武器にもなれば、判断を誤らせる凶器にもなり得るというデータの本質に対する理解が日本全体に決定的に足りていないことに根本原因があると感じています。
以前、自分の「リアライズ社長ブログ」でも記しましたが、「そのデータが後々にどのような活用のされ方をするか」をイメージせずにデータを取り扱うことの恐ろしさ、組織のボトムからトップに至るまでのデータマネジメントの重要性に関する実感がもっと日本社会の「新しい常識」になってほしいと願うばかりです。

・杭データ改ざん事件に寄せて~ストップ!データ軽視~

realize-corp.jp/blog/blog02-2-4

年末の国交省での統計不正の報道に触れるにつけ、自分が声高に叫んできたことが活かされていないことに暗澹たる気持ちになるとともに、まだまだデータマネジメントの普及・啓発に取り組んでいかなければいけないと決意を新たにした次第です。

DAMA日本支部 企画担当理事
日本データマネジメント・コンソーシアム[JDMC] 発起人 兼 事務局長
大 西 浩 史

「デジタル化」で改革ができるか?

9月1日にデジタル庁が発足され、平井卓也デジタル相の会見はじめ、華々しくメディアでも取り上げられています。
報道のされ方含めて、誰もが「徹底的にデジタル化を進める」と繰り返していますが、この認識に私は大いに違和感を覚えます。

アナログ(紙)のデジタル化(電子化)についていえば、職員のExcelだろうが、多額な国家予算が投じられ、ほぼ使われていないような行政手続きシステムだろうが、既にデジタル化(電子化)されている状態になっているのです。
問題は今やデジタル化することではなく、各行政手続きごとに縦割りの状態で構築され、メインフレーム時代の古いアーキテクチャーを見直すことなく長年場当たり的な増改築が繰り返されてきたシステムの中で”データがサイロ化”し、意味や粒度、整合性が合わない状態で分断されていることが最大の問題なのです。
適切に管理されないままに増大化の一途を遂げるデータは、複数の「系」のシステムをまたがってつなぐことができないため、手続きのたびに本人確認や同じ情報の入力を強いられ、デジタル化(電子化)すればするほど、人手のかかる照合・確認対象のデータや利活用することができないデータがさらに無尽蔵に増えていくことを強く危惧しています。

デジタル化(電子化)という手段が今後も引き続き目的化し、新たな「器(システム)」の開発・導入が進んで濫立化することにより、その結果、使えないデータがさらに増えてしまう。
この悪循環を断ち切るためには、「器(システム)」ではなく、その「中身(データ)」と向き合い、これをいかに最短距離で整備すれば利活用できるようになるかを実地にアセスメントし、それを改善していくための地道な活動計画を策定・実行していくことに他なりません。
どうしても目に見えやすい「器」をどう作るかに衆目が集まりがちになりますが、その「中身」と真摯に向き合わないと、政府が標榜する「Once,Only原則(国民・事業者が役所に一度提出した情報を他の役所が二度と求めてはならない)」などは夢のまた夢になります。

データマネジメントの普及・啓発団体であるDAMA日本支部にとっても、私が事務局長を務める(一社)日本データマネジメント・コンソーシアム[JDMC]としても、こうした問題意識をもっと世に問い、情報発信していくことが重い責務なのではないかと、デジタル庁の一連の報道を見ていて再認識した次第です。

DAMA日本支部 企画担当理事
日本データマネジメント・コンソーシアム[JDMC] 発起人 兼 事務局長
大 西 浩 史

政府の「デジタル・ガバメント実行計画」に”データマネジメント”が明記されたこと

令和2年12月25日に閣議決定された「デジタル・ガバメント実行計画」では、行政機関がデータマネジメントを推進すべきことについて明確に言及されました。
政府関係者の皆さんやCIO補佐官の皆さんに対して、10年以上長きにわたって何度も何度も行政におけるデータマネジメントの必要性を訴え続けてきた私としては、「うれしい」という素直な気持ちと「やっとか」という忸怩たる思いが交錯する複雑な心境です。

実行計画では以下のように記されています。

※「デジタル・ガバメント実行計画」(令和2年12月25日 閣議決定)より該当箇所抜粋

(6)データマネジメントの推進(◎環境省、内閣官房)
4.8.7 行政データ連携の推進
行政データ連携の推進、行政保有データの100%オープン化を効率的・効果的に進めるためには、各府省において保有するデータの全体像を把握し、連携・オープン化するデータの優先付けを行った上で、必要な情報システム・体制を確保し、データの標準化や品質管理等を組織全体で進めていくことが必要である。
そのためには、そうした一連のプロセスを体系的に進めるための戦略を定め、取り組んでいくことが重要である。
環境省では、政府におけるデータマネジメントの試行的な取組が進められており、今年度中に「環境省データマネジメントポリシー(仮称)」を策定し、 2021 年度(令和3年度)以降同ポリシーに基づき行政データ連携の推進や、環境省保有データのオープン化の取組を進める。
こうした取組の実施状況も参考にしつつ、政府におけるデータマネジメントの在り方を検討する。

これまでも「デジタルガバメント基本方針」や「官民データ活用推進基本法」などの公式な取り組みの方針等もあったのですが、「データマネジメントの推進」や「各省庁において保有するデータの全体像の把握」、「データの品質管理」といった表現が入ったのはこれが初めてではないかと思います。

データマネジメントを適切に行い、縦割りの行政サービス統合化により国民の利便性向上や行政事務の非効率の排除のために徹底的にデータを活用していかない限り、日本の国力の低下を招くことは火を見るよりも明らかです。
行政データが各府省、各手続き単位でまったくつながっていないことがコロナによって白日の下にさらされ、様々な不都合や無駄な支出が税金で賄われたことを国民が目の当たりにしました。
今回の「デジタル・ガバメント実行計画」がこの惨状を少しでも改善し、今度こそ、データマネジメントに対して政府が本気で取り組む契機となることを切に願っています。

DAMA日本支部 企画担当理事
JDMC事務局長 兼 理事
株式会社リアライズ 代表取締役社長
大西 浩史

データマネジメントなき「デジタル庁」は”いつか来た道”

「デジタル庁」は救世主になるか?

長期に渡った安倍政権から菅首相にバトンが渡され、その政権の目玉政策として「デジタル庁」が注目を集めています。
デジタル、つまりはデータの存在が日本のビジネスパーソンだけでなく、一般の生活者や子どもたちにも広く耳目に触れるようになること自体は非常に良い傾向ではないかと感じますが、本当にお題目として謳われている行政サービスや国民の利便性の向上、既存規制の改革などに効果を発揮することができるのか?
その際に注意しなければならない点があることを私は指摘しておきたいと思います。

かつても「e-Japan構想」などのITによる行政改革の試みは多額の予算が投じられ、「政府エンタープライズ・アーキテクチャー(EA)」といった取り組みが何度も行われてきました。
ただ、それらがどのようなメリットをもたらしたというのか。
国民や民間事業者、行政職員の皆さんですら、そのメリットを実感できていないのではないでしょうか。

それはなぜかというと答えは簡単で、「電子化することが目的化した」という一点に尽きます。
既存の法令、制度、ルール、組織などを是として、そのままプロセスを電子化するだけでは帳票単位にシステムが濫立するだけです。
その帳票ごとにバラバラなデータが生み出され、活用できないばかりか、たとえば、住所変更の手続きを役所ごとに利用者に強いることになります。

デジタル庁においても「デジタル化すること」が目的になってしまえば、これまで何度も踏んでいた轍を踏み、無駄なプロセスを温存してデジタル化、要は電子化することに再度血道を上げることになるでしょう。
一時期ブームになった”オープンデータ”の政府の動きも「オープンデータ化すること」が目的化し、誰からも使われないオープンデータの数だけが競われ、価値あるデータの提供につながらない残念な結果に終わるでしょう。

データマネジメントを大前提とした「デジタル庁」に

では、真に行政サービスの向上や規制の改革などに資する「デジタル庁」にするためにはどうするか?
今度こそ、「データを中核に捉え、行政サービスのお客様である国民や民間事業者を主役としたデータマネジメントを、府省横断的に徹底すること」ではないかと思います。

これまで複雑に築き上げてしまった既存の巨大システムに存在するデータと向き合うには相当の困難を伴うことは間違いありませんが、ここにメスを入れない限り”いつか来た道”を通ることになることは必定です。
「デジタル庁の役割は行政データマネジメント」といった覚悟で取り組んでほしいと願います。

DAMA日本支部 企画担当理事
JDMC事務局長 兼 理事
株式会社リアライズ 代表取締役社長
大西 浩史

アフターコロナ時代だからこそ高まるデータマネジメントの重要性

コロナは我々の行動スタイルを変えてしまった

新型コロナウィルスは、我々のビジネス上や日常生活上の行動を根底から覆してしまいました。ワクチンが開発された後であっても、「仕事をすること=オフィスに行くこと」ではなくなり、これまでのノーマルでは「何はなくとも、定期的にお客様へ訪問営業すること」でしたが、ニューノーマルでは「本当に重要な商談以外は対面ではなく、リモートで済ませたい」となるでしょう。また、「賑わって混雑しているお店でショッピングを楽しむ」というノーマルな日常生活が、ニューノーマルでは「何かあったら怖いので、できるだけ”密”を避けて短時間で済ませたい」という行動を取る人が必ず一定層は残ると思いませんか。

このように、我々の行動が“密”を避け、“疎”を求めるようになると、これまで企業が対人・対面(リアル)で当たり前のようにできていたことができなくなり、自社のお客様とのリレーションシップをよりオンラインで、つまりデータを通じて良好に維持し、他社に奪われないように強固にしなければならない、と気付くと思います。では、ひとたび目を転じて、自社のリアルおよびオンラインにおけるお一人おひとりのお客様とのタッチポイントで発生しているデータが現状どのようになっているか?

多くの企業では、自社の様々なシステムにお客様に関するデータが散在し、相互につながっていなかったり、いちいち個別のシステムの中のデータを調べなければどのような対応履歴があったかを把握できない、そんな状態になっていませんか。お客様やお客様が買ってくださった商品などに関わる基軸データが社内の様々なシステムに分散し、「つながっていないので、行動履歴がバラバラになってしまっている」、「整合性や精度に難があるので、信頼できない」、「社内のどのシステムにどのデータが存在し、それらがどのように連携しているのかが可視化できていない」といった現状に直面する会社がほとんどだと思います。

改めて、データマネジメントの重要性が否応なく高まる

これまでマーケティング、営業・販売、設計・製造、デリバリー、アフターサポートなど、個別部門の業務処理の「電子化」を目的として構築されてきたシステムの中のデータを活用しようとすると、それらを「“疎”を求める自社のお客様との関係性を良好に維持するために活用できる状態」に再編成し直すための取り組み、すなわち、全社的なデータマネジメントが必要不可欠となります。

「情報(データ)は、ヒト、モノ、カネと並ぶ第4の経営資源である」といわれて久しく、昨今では「データは次のオイル」などと喧伝されるようになりました。また、巷ではデジタルトランスフォーメンション(DX)、つまりデジタル(=データ)による自社の事業変革の必要性が叫ばれ、AIやIoTなどの情報技術の進化と浸透によりネットだけでなくリアルの世界でも、ヒトやモノのあらゆる動きが「行動データ」で取得していくことが可能になりましたが、いくら膨大な「行動データ」が取得できたとしても、それらが自社の大切なお客様や商品としっかりつながっていない限り、活用することは決してできません。

データを真のオイルに変えるためには、「それを活用可能な状態に精錬するためのプロセスや体制」や「自社内外のデータ資源の可視化と整備」が重要になることは論を待たず、お客様とのリアルな接点が「疎」に傾倒するアフターコロナ時代だからこそ、データマネジメントの重要さが改めて認識されるでしょう。視界不良な環境であればあるほど、正しいファクト(=データ)に基づいた意思決定を行うべきは、国においても企業においても変わらず、データマネジメントに真摯に向き合う企業、そうした経営者やリーダーがいる企業こそがアフターコロナ時代でもお客様への価値を弛まずに提供し続けられるものと確信します。

DAMA Japan 企画担当理事/株式会社リアライズ 代表取締役社長 大西 浩史