情報通信白書2020年版の紹介

毎年刊行されている情報通信白書の令和2年版が8月から公開されています。

今回は、その概要について特にデータとの関連を中心に紹介します。

― 目次  ―

第1部  5Gが促すデジタル変革と新たな日常の構築

はじめに

第1章 令和時代における基盤としての5G

第1節    新たな価値を創出する移動通信システム

第2節    5Gの実現・普及に向けて

第3節    5Gをめぐる各国の動向

第4節    5Gが変えるICT産業の構造

第2章 5Gがもたらす社会全体のデジタル化

第1節    我が国が抱える課題と課題解決手段としてのICT

第2節    2020年に向けたデジタル化の動き

第3節    新型コロナウイルス感染症が社会にもたらす影響

第4節    5Gが促す産業のワイヤレス化

第3章 5G時代を支えるデータ流通とセキュリティ

第1節    5Gが加速させるデータ流通

第2節    デジタルデータ活用の現状と課題

第3節    パーソナルデータ活用の今後

第4節    5G時代のサイバーセキュリティ

第4章 5Gのその先へ

第1節    2030年代の我が国のデジタル経済・社会の将来像

第2節    Beyond 5G の実現に向けて

(第2部は、基本データと政策動向なので省きます。下記をご覧ください。)

https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/r02/pdf/index.html)

昨年度は、「Society 5.0」がメインテーマでしたが、今年度版は、ご覧の通り5Gを中心にその浸透とデジタル化の進展が並行して説明されています。

はじめに」では、今年のCOVID19の感染拡大下でデジタル環境を利用せざるを得ない状況となり否応なくデジタルインフラに移行していく実態が描かれています。

デジタル化が進むのは一見良さそうに見えますが、システム化計画の無い中での局所的なデジタル化によってっ将来的な情報インフラに悪影響を及ぼしかねないことが無ければよいのですが。

第3章は、「5G時代を支えるデータ流通とセキュリティ」と題してデータとの関連で俯瞰しているので覗いてみました。

第2節 デジタルデータ活用の現状と課題」の「1 日本におけるデジタルデータ活用の現状」では、

ア 「データ活用の現状」で、『図表3-2-1-1分析に活用しているデータ』を参照し、『5年前に実施した調査と比較して、POS やeコマースによる販売記録、MtoM データを含む自動取得データの活用が大きく進展しており、各企業におけるIoTの導入が進んでいることがうかがえる』としています。

また、データ活用の割合はやはり中小企業と比べて大企業の方が大きく、データ活用は資本規模の小さい中小企業にとって有利という見方は、そうでもなかったということでしょうか?

イ 「デジタル・トランスフォーメーションの取組」では、『ICT化に関連する業務慣行の改善について尋ねたところ、「社内業務のペーパーレス化」が最も選択された。一方で直近3年以内に実施した取組を尋ねると「テレワーク、Web会議などを活用した柔軟な働き方の促進」が最も多かった。』と記されており、DXの本格的な取り組みはまだこれからというところのようです。

興味深いのは、「データに基づく経営」図でCDOを設置している企業が30%以上もあることです。また、『「データ分析人材の採用」、「データ活用戦略の策定」、「データ分析に基づいた経営判断の実施」を挙げた企業が4割程度あり』、総じて経営戦略・判断にデータを活かしていこうという意識は高まっているようです。

その一方、ウ 『今後のデータ活用の見通し』では、『今後もデータを活用していきたい』という領域が3割程度ある一方で、『今後もデータを活用していく予定はない』、という領域が35.7%~51.4%もある、という結果が出ています。この辺の意識についてはもう少し深く掘り下げてほしいところです。

データ活用という観点では、GAFAといわれるいわゆる情報プラットフォーム企業に大きく市場を奪われている現状で、今後日本企業がどう巻き返していくのか期待したいものです。

本情報通信白書は、日本の情報通信産業の現状を幅広く俯瞰的に捉えたものであり、ハード/通信よりの色合いが強いとも思えますが、日本の情報産業全般を鳥瞰するには良い資料と思えます。既にご覧の方もおられるでしょうが、大部ではありますがご興味があれば一読してみてください。

コロナ時代のデータリテラシー

コロナ問題が浮上してから半年以上が経過していますが、相変わらず「感染者数」中心の報道が続いているようです。流行当初からニュースなどでは感染者数ばかりが重視され、死者数や重症者数があまり報じられていませんでした。もう少しきちんと「データ」に立脚して判断すべきなのではないかと思っていましたが、そもそも感染者数や死者数、重症者数の定義が曖昧のようです。(この点は、6月の総会で林会長からも指摘がありました。)

データがあふれている現在、データの読み書き算盤能力と言われるデータリテラシーが疎かにされているような気がしました。そこで、データリテラシーという言葉がふと頭に浮かびネットを覗いてみました。

するとDataversityのサイトの「The Importance of Data Literacy」(https://www.dataversity.net/the-importance-of-data-literacy/#)という記事が目に留まりました。

その中で、MITメディアラボのRahul Bhargava氏とMITデータフェミニズムラボのCatherine D’ignazio氏によるデータリテラシーの定義として、以下の4つが挙げられています。

  • read(読む)
  • work with(使う)
  • analyze(分析する)
  • argue with(データを使って議論する)

Qlik社のMorrow氏によれば「データリテラシーを身に付けていればフェークニュースなど存在しない」ということだそうです。

何れにしても、データを正しく取得し、自らの頭で考え、行動することが、以前にも増して求められているのだと思います。

同ページの「Data Literacy」のリンク先を開くと、元米国国務長官コリン・パウエル氏の「40-70ルール」というルールが載っており(彼の地では有名らしい)、「必要なデータのうち40%に満たないデータで判断するのは無謀だが、70%以上のデータが得られるまで待っているとチャンスを逃す」という説明がありました。まさに、リーダーの決断の難しさを良く表していると思います。今回のコロナ禍でも、支援金をいつ/どのように出すのか、緊急事態宣言をいつ出すのか/出さないのか、同じく何時終了するのか、またGoToキャンペーンの是非などを巡って、様々な議論があり、政治的決断の難しさが顕わになりました。

必要なデータとは何なのか、これまた難しい問題だと思いますが、全てをまな板の上に載せた議論をしたいものです(これもまた、また、難しいことではあると思いますが)

データリテラシーはフロントからバックまで組織の全ての部署で必要となります。いわゆる「データの民主化」が求められるということです。そのためには、データマネジメントがやはり重要になってきます。コロナ禍の今だからこそ基本に立ち返り、データマネジメントに関わる叡智を養いたいものです。

これまでも人類は様々な感染症に苦しめられてきましたが、今回のコロナ禍は、人・モノ・カネ・情報、全てが高度にグローバル化された社会に生じた、現代人にとって未曾有の出来事であると思います。この禍を転じて福と為すべく、この混乱の中から画期的なイノベーションが生まれることを期待しています。

以上

新型コロナウイルスとオープンデータ

今回のコロナ禍の中、オープンデータの活用が目を引く機会が増えてきているように思われます。(下図<東洋経済オンライン>は、皆さんも良くご覧になっているのではないでしょうか。)そこで、オープンデータの現況について調べてみました。

私が、オープンデータを知った契機は、某ソリューション会社にてデータの利活用状況について動向調査をしていた時でした。米国のDATA.GOVを覗いたところ、そこに、当時(2013年)のオバマ大統領のメッセージとして「参加型の民主主義をより一層推進するためにこのサイトを立ち上げた~云々」といった内容が高らかに謳われており、妙に感心したことを覚えています。

日本では、2011年の東日本大震災発生時に、それまで電子政府の取組みを進めていたにもかかわらず、緊急事態に即応する行政のデータがなかなか提供できない中、Google/Twitter社による携帯電話やSNS等からのいわゆるビッグデータ活用した取組みが大きな話題を呼びました。

その後、公共データ等を集約して二次利用可能な形に整備して提供できるような体制が求められ、2012年に「電子行政オープンデータ戦略」が策定され、推進されてきました。 それから大分時が経過しましたが、日本のオープンデータの現状は、どうでしょうか?

The Open Data Barometer ホームページより

WWW財団による、Open Data Barometer によると、2018年の世界の上位は、上の表のようになっています。
日本はニュージーランドと並んで6位にランクされています。
意外(?)とも思えますが、実際の状況はどうでしょうか。

1.政府の状況

当初、データ公開中心の取組みであった「オープンデータ1.0」から、2016年には、データの利活用を前提とした「課題解決型のオープンデータ」の実現を目指す「オープンデータ2.0」にステップアップし進められてきました。(政府の取組みについての詳細は、「オープンデータへの取組み」参照。)

「オープンデータ2.0」構想のもと、2017年5月には、「オープンデータ基本指針」が策定されました。オープンデータの意義や定義とともに、行政手続きや情報システムの企画・設計段階からオープンデータ・バイ・デザインの考え方を取り入れることを前提として、基本ルールが以下のように定められています。

行政保有のデータは公開を原則とし、二次利用も積極的に促進すること、公開環境として容易に検索・利用できるウェブサイトを利用すること、データの形式はWWWの創設者Tim Berbers-Lee が提唱した「5つ星」の指標を参考にする、オープンデータのメタ情報をデータカタログサイト「DATA.GO.JP」に登録し、公開することなど。 また、公開・活用を促す仕組みとして、官民でデータの公開・活用の在り方を対話する「オープンデータ官民ラウンドテーブル」が2018年1月から開催されています。

2.地方自治体の状況

政府のみならず、2016年の「官民データ活用推進基本法」により、都道府県での推進計画策定が義務付けられたこともあり、また「オープン&ビッグデータ活用・地方創生推進機構」等の活動にもより、一応全都道府県でサイトが立ち上げられています(左図のように全都道府県にサイトが設置)。

市町村では、推進計画の策定は努力義務にとどまっていますが、鯖江市横浜市などがいち早くポータルサイトを立ち上げました。
2020年までに地方公共団体のオープンデータ取組率を100%にすることを目標としていましたが、2019年9月17日現在で37%(652/1,788自治体)に留まっています。

3.民間との連携

様々な事業体や地方自治体の利活用事例やアクティビティは、「オープンデータ100」として、政府CIOポータルに掲載されています。(2020年5月現在、事例64、アクティビティ6)

こうした取組みを推進していくために、シビックテック(Civic Tech=市民+テクノロジー)という、市民自身がテクノロジーを活用して社会や地域の課題解決を目指す、一種の運動が進められています。Code for JapanやCode for XX(XXは事業者や自治体等の名称)という活動により、行政・市民・企業の三者による地域づくりへの試みが各地にて行われています。

より詳しく知りたい方は下記をご覧ください。
地方におけるオープンデータの取組状況について」(2019.10.16)内閣官房情報通信技術総合戦略室
オープンデータを活用したアプリケーション等に関する調査研究報告書」(2019.06.21)

4.新型コロナウイルス対策とオープンデータ

今回の新型コロナ対策として、東京都でいち早く(3月3日)「新型コロナウイルス感染症対策サイト」(下図)がシビックテックによりオープンソースとして立ち上げられ、その後全国80サイトに波及しているそうです。

内閣官房IT総合戦略室、総務省、経産省は3月9日、新型コロナウイルス感染症対策にまつわるテレワークやeラーニングなどの支援サービスを無償/期間限定で提供する情報をまとめたWebサイト「#民間支援情報ナビ/VS COVID-19」を公開しました。企業やシビックテック各団体と連携し、オープンデータを活用した情報検索サイトが構築され、各種支援サービスの検索が可能となっています。

また、緊急事態宣言発令にあたって、病床数不足が挙げられていましたが、全国の病床の使用率を一覧化したダッシュボードも公開されています。これも鯖江市のシビックテック Code for Sabaeの福野泰介さんらにより開発されています。
行政側で公開されているデータは、まだまだPDF等の機械に判読不能の「一つ星」データですが、これをより機械判読性を高めたデータ形式で公開できるよう促すべく、シビックテックの有志が協同して「オープンデータ項目定義書」を作成したりという動きも出てきています。

これに関する総務省の資料は下記を参照してください。
新型コロナウイルス感染症対策サイトのためのデータ公開について(2020.03.21)

5.所感

上記のように、新型コロナウイルス問題をきっかけとして、オープンデータに関しても様々な試みが行われています。日本各地で民間と連携して色々な取組みが行われていることを知り、その進展に期待を持ちたいと思いました。ただし、取組み事態は結構なのですが、今回顕わになってきたのは、ITインフラに関する様々な脆弱性です。
 いちいち上げると情けなくなってくるのでそれは止めますが、根本的には、データ利活用の仕組みや考え方が根付いていないことが大きな原因の一つのように思われます。昨今DX(Digital Transformation)が叫ばれていますが、個人的には、デジタルインフラの大きな中心の一つはデータインフラであり、ITに係る全ての関係者にデータリテラシーが求められているのではないかと思っています。
 今こそ、ラジカルにデータマネジメントを熟慮し実現していかなければならない時代だと痛感されます。

以上