データマネジメント成熟度評価を考える(8/25 10分科会話題より)

8月25日(水)に月次の第10分科会(ZOOM方式)が開催され、筆者が以下の題目で説明を行いました(参加者19名)。この記事ではその話題概要と、出された質問の回答に補足する内容を記します。

題目:「データマネジメント成熟度評価/データモデル評価の考え方」

この分科会で議論したように、データマネジメント(DM)成熟度評価の実施/適用を考えるに当たっては、以下の3点を意識した計画が必要です。(当日の資料については筆者の運営するWebページからダウンロードできます。興味ある方は参照下さい(※1))。 

  1. 目的設定および結果の使用方法の明確化 
  2. 評価スコープの設定(対象部門、システム領域、時間的スパン)
  3. 参加者(成熟度評価実施者、実務側の関係者)を含めた中での意図・内容理解のためのコミュニケーション実施

企業としてのDM活動は、言うまでも無く個人の努力のみで成立させるものでなく、組織的活動により成果(例えば高品質なデータを提供する)を生み、長期的に維持する環境を築く事と捉えられます。企業のマネージャレベルの方との話として筆者がDM成熟度の話題を出すと、案外簡単に「自社のレベルはゼロかな。」或いは「うちは1だね。」のような答えが返ってきます。恐らくそのマネージャ感覚は正しいと推察されますが、そのままで済ませていると何時まで経ってもDM環境は改善せず時間が過ぎ去ることになります。現場でデータを扱う方々やシステム関係者は何となく日々の問合せに追われ続け、時によっては何らかのトラブル対応に大部分の時間を費やさざるを得ない状況も生まれます。

それでは、成熟度アセスメントの使い道は一体何なのでしょうか?その考え方の第一の要点「項目1」を図1に纏めました。

現在状況で十分に要望を満たせている場合を除き、自社のDM環境を何とか将来を見据えて改善したいという思いを形にするには、それを企業内公式化する必要があります。このための手段として利用するという考えがあります。DMBoK2 第3章「データガバナンス」のコンテキスト図(同図14)で、入力として成熟度アセスメントが記載されているのはそれを意図するといえます。現状を知り、将来に渡る改善/改革目標への道筋を立て、そのためのプログラム/プロジェクト予算化・リソース確保を確実にするという流れです。従って、この段階のアセスメント(査定)は、余り細かな問題点や対策を突き回すというよりは、中期的な視点での課題とその改善の方向性を見出し、そのための予算化の必要性を経営者/オーナーに理解してもらうために利用すると考えることです。実際の予算額見積りやプロジェクト化は次の段階として検討されることもあるでしょう。

この公式化を納得性のあるものとするためには、目指すDM環境に関して何らかの根拠が要求されます。このためにDM成熟度フレームワーク(DMMF)を参照する事が一つの有力な考え方です。DMMFは有識者により、有効な企業内DM環境のための必要要素を整理したもので、ゼロからDM構想を練り上げることなく時間の大きな節約につながります。この意味である程度の客観性を供えたものとして使用できます。そして冒頭で取上げた三要素の中の「項目2」を検討する材料とできます。但し、DMMFは理想的環境構築(レベル5或いは6)を前提とした幅広い視野で構成されている点に注意が必要で、ピンからキリまでを取上げたものといえます。つまりDMMFを与えられたものとしてそのまま利用するのではなく、自社の当面の目標として、どういう要素をどの程度までに実現するかという身の丈を踏まえた見方を通じ、批判的に参照することが大切です(様々なリソース(人・費用・時間)に余裕のある大企業視点で見るのか、成果第一の形から取組むか等を見極める点も含める)。こういった利用視点を「テーラリング」と呼んでパッケージの「カスタマイズ」と区別することがあります。

参照するDMMFの種類によって成熟度レベルの段階(図2)、判断基準、ドメイン/コンポーネントの内容は大きく異なります。従って、全ての要素を統合して考えるよりは、一つを軸に、不足する内容について他を参照して補うという考え方が適していると考えられます。CMMI/DMMは全体項目数が多く判定に厳格性があり、運用操作性主体で腰を据えた取組みが必要です。EDMC/DCAMはDMMよりも項目は少なく機能性重視視点を持ちます。DMBoK2はDMMFというよりは技術的構成要素を主体にした解説と対応策アクティビティ検討の材料という意味合いが強く、DMMFとして使うには評価項目の具体化等ブレークダウンが必要です。例えばDMBoK2で取上げている第10章「リファレンスおよびマスタデータ」項目はCMMI/DMMでは具体的プロセス領域として明示されていません。

要点「項目3」については、DM成熟度評価の計画・実行・結果の評価/共有という各段階で必要な内容です。計画段階では、実施目的・意義の周知、実施者教育およびインタビュー対象となる部署の理解獲得、経営者関与の明確化が主体です。実行段階ではインタビュー円滑化、スムースな査定文書類取得と分析・状況の共有が含まれます。結果共有の段階では、業務関係者の課題認識確認、今後の時間軸イメージの共有、経営者/スポンサーの納得性の獲得といったことが対象です。特に成熟度評価結果から、今後の改善/改革に向けたロードマップ作りと目標・期待効果設定が、関係者の理解を得た上で相当程度具体化することで、予算化/プロジェクト化という次段階への道筋作りに繋がります。この進展への第1段階は、パイロット的な小規模範囲のプロジェクト的試みから始めることになるかも知れません。

また、成熟度評価手続きをどのようなメンバで行うかといった考慮点もあります。評価を方法論に慣れた専門家に委ねる考え方もありますが、結果の理解を深めた上で次のステップに進めるという意味では社内担当者が主体で実施する方が望ましいといえます。また、評価報告書に対する信頼性を経営者がどのような価値観で見るかも必要な考慮事項です。外部の戦略コンサル会社の意見を重視する形なら、やはり外部専門家活用を重視、一方、社内有識者の進言を大切にする経営者向けでは、社内関係者を積極的に活用するという考え方になるでしょう(但し、成熟度評価の意味合い・方法を理解した上で実施)。第三者視点で実施するといっても、会計監査のように法規制で決められている評価姿勢と異なり、DM成熟度評価は厳密性・正確性・規則準拠性等よりも、ある程度の曖昧さが残っていても関係者の納得性を得ることを重視して進めるべきものと筆者は考えます。

最後に、先に書いたようにDMMFは、具体的な対策の考え方の参考書として見ることもできます。特にDMBoK2の知識領域のプロセス説明は、そのような視点で書かれていると理解すると分かり易いでしょう(但し、書かれていること全てが、自社にとっての絶対的な正解とは限らない点に注意)。いずれにしてもDMに関わる各領域/ドメインを参考にして個別的に理解するだけでなく、領域同士の関係を意識して読み取ることが大切です。この例として、分科会説明で取上げた、Abu Dhabi政府データマネジメント標準(V1.0)を元にした見方を紹介します)。

図3は上記DM標準に記述されるDM領域要素の関係を、資料内容を参照して筆者が図解したものです。この標準はDMBoK1をベースにして作成したものですが、内容から見てDMBoK2を基準にして構成要素は大きく変わっていません。DMBoK2にない要素として、「データカタログ」、「オープンデータ」の2要素がありますが、前者は「メタデータ」および「データガバナンス」と関連付け、後者は「文書とコンテンツ管理」と連携することで分かり易くなりそうです。このようにDM構成要素の関連を図解することで、構築しようとするDM環境がどのように位置付いているかを理解する助けとなります。例えば、ここで特徴的なのは、「メタデータ/データカタログ」が要素フローの先頭にある点、「データ統合と相互運用性」がフローの最後尾にある点です。これによりメタデータの構築を軸とし、他システム/データ要素との連携は次の段階として捉えられていると推測できます(この要素関係は、筆者が整理したDM歩き方マップから見てDMBoK2の記述内容と大きく違っている点です)。目標とするDM環境をこういった要素関係の整理視点で描くことは、DM成熟度評価を計画/評価する上で役に立つものと筆者は捉えています。

尚、説明題目にある「データモデル評価」についてはDMBoK2 第5章 5.2で説明されているHobermanの説明を補足したものであり、誌面の都合上ここでは割愛します。

(以上)

※1 筆者のWebページ(インフオラボ游悠で検索)。Topページにある「游悠レポートページ」ボタンをクリックして移動。「游悠レポート2021-006」を参照。尚、当該資料でDMBoK2の内容を取上げた部分では、日本語版発行前に筆者作成したページについて「データマネジメント知識体系ガイド(第二版)」と用語表現が異なっている点に注意。

※2 図は何れも、8/25(水)第10分科会説明で用いた資料から抜粋。※1の資料を確認。

※3 この資料はDMBoK1を参考に作成し2016年に公開されたもので、Abu Dhabi政府に関連する50以上の団体/企業エンティティのDM環境構築の標準統制事項を規定している。この標準に従ったプロジェクトがこれまで進行・実現されていると同政府関連Webページでは紹介している。

[投稿者]中岡 実(インフオラボ游悠 代表/データマネジメントコンサルタント、ITコーディネータ、PMP、認定心理士)