DMBoK2の歩き方とデータガバナンスの位置付けを考える

筆者もDama-Jで設けられている各種分科会に参加している中で、最近新しく分科会参加してくる方々(主にベンダーやコンサルタント系)から出てくる参加理由として「仕事で出会うユーザ企業の人々が「データマネジメント知識体系ガイド(第2版)」(DMBoK2)を見ていて、自分たちもしっかり勉強しておく必要性を感じたため」という意見を聞くことが多くなっています。データをビジネス資産として扱おうという企業活動からすると、これは当然の流れであり筆者も喜ばしい傾向と捉えています。しかしDMBoK2そのものは知識領域を網羅的に解説した内容であり、初学者が手軽にその内容を理解するのに抵抗を感じるという読者意見も少なくありませんでした。

そこで今回の記事では、分科会活動へ参加する中で筆者が整理した、DMBoK2で説明しているデータマネジメントの全体像をビジュアルな形で理解を進めるための地図「データマネジメント歩き方マップ」について簡単に紹介し、一つの知識領域である「データガバナンス」の位置付けに目を通したいと考えます。(この「DM歩き方マップ」についてはEDW2020のビデオパック講演として筆者が紹介したものです(※1)。日本語版/英語版あり)

データマネジメントを具体的なものとして捉えるためには、それを構成する知識領域(機能構成)を個別に学習するだけでは不十分であり、それら知識領域の全体像(関連性)を理解する必要があるということが筆者の考え方です。この全体像を捉え、しかも個々の要素も見落とさずに眺めることができるようにしたいというのが筆者の目標であり、それを具体的に表現する形として作成したのが、この「DM歩き方マップ」でした(図1)。

図 1 DMBoK2 データマネジメント歩き方マップ 1.8版と知識領域対応図 (※2)

今やスマートフォン/PCの日常的利用の中で、地図を活用できることの便利さを否定する人は余りいないと思われます。それと同様にデータマネジメント(DM)という難題に取り組み、理解を共通化するためには、視覚的見方を可能とするDM地図が必要です。これを利用することでDMBoK2の知識領域(機能分野)の関連性理解を深めることができます。

(ここでは紙面の都合上、細かい議論には入りません)

図1は、機能分野の外部的関連性を表していますが、それに加えて各分野の直接の参照関係を表現したものが、参照関係図です(図2)。ここでは12の知識領域に加えて、他の5つの章を加えた合計17の章立ての内部関係性を表しています。参照関係は方向性(矢印の向き及び色使い)と関係の強さ(矢印線の太さ)で示しています。この図(DM歩き方マップ2)を参照することで、DMBoK2を読み解く上での章間の流れを離散的に推し量ることができます。

図 2 DMBoK2 各章の記事参照関係図(DM歩き方マップ2) (※2)

これらのマップ利用の例として、DMを考える読者の多くに感心の高いと考えられる、第3章「データガバナンス」を取り上げてみます。図1からデータガバナンス領域は各知識領域へ繋がる起点の話題であることが分かります。それと同時にDM活動を考える上での1.ビジネス戦略、2.EA(エンタープライズ・アーキテクチャ)戦略、3.データ戦略といったビジネス活動に直結する戦略領域の話題はDM活動に対する入力となっていることを確認できます。つまり企業活動の上で、DMを推進することは目的ではなく手段であると改めて視覚的に説明できます。ビジネス目標を達成する、データ資産化を実現するために何をしたら良いかと考えてゆくことが、DM活動の方向性であるといえます。それであるからこそ、スポンサー、経営者も本気で取り組むべき話題であると捉えることができます。

(少し話が逸れますが、2年位前のIT領域に関わる記事で大手企業(複数)役員が「CIOは貧乏くじ」という発言をしたのを取り上げていました。そういう企業ではいつまで経っても、システムトラブルが絶えることはなく、システム関係者こそ被害者意識を持ちながら鬱々とした日々の仕事生活を送っているだろうと想像したことを思い出しました。)

マップ2から見ると、データガバナンス領域(第3章/DG)の延長として第15章、16章、17章が構成されていることが確認できます。DGを多く参照しているのは、参照データとマスタデータ(第10章)、データ品質(第13章)で、他の章からの参照も幾つか存在します。第3章はデータ品質を高め・維持に関する組織立て、基本的プロセスの考え方を説明しています。これを踏まえて各機能領域での具体的なDG活動は、それぞれの領域内に含まれるという構成で読み進めることがDMBoK2データガバナンス理解の道筋となります。

DMBoK2でのDM知識領域解説は網羅的な形であり、一部を除いて余り役割階層的、また時間軸的な説明を区別したものとはなっていないと見ることができます。それが、DMBoK2を頭から順番に読了しようとして読者が躓く一つの要因であると、筆者には考えられます。DM歩き方マップで見る景色は、実際には時間軸(ロードマップ要素)、整合性を踏まえた関係者の役割軸を意識する必要があります。データガバナンス要素を含めて、DM活動は組織としての継続的で総合的な有機的活動とすることが必要です(図3)。個人の努力に依存する形では、決してDM活動の理想に到達できないものと筆者は捉えています。人材の流動化が益々想定される社会では、確固として継続的なデータマネジメント活動の意味が大きなものとなることでしょう。

図 3 DMBoK2 を基本にしたデータマネジメント知識領域全体像 (※2)

組織的活動としてのデータマネジメントを成功させるために、DMBoK2で議論されているエッセンスが広く多くの立場の方々に理解され、納得性のある当たり前の活動として実践されることを期待しています。

尚、本記事で紹介したDM歩き方マップ等に関心のある方は、筆者に照会頂ければ資料ご案内します。問合せ下さい。

(メール: minoru.nakaoka(a)infolabyouyou.com メール発信時は、(a)部分をアットマークに変更下さい)

※1 EDW(Enterprise Data World)カンファレス2020は、当初3月にカリフォルニア、サンディエゴ市で開催予定されていたが、コロナ窩話題により集合形式実施は中止された。その際、主催者からの照会によりビデオ録画形式での実施参加問合せを受け、筆者はビデオパック向けの講演参加を行った(60セッション強のセッション参加あり)。

演題 “Walking Map of DMBOK2 : A Bird’s-Eye View to the Data Management World”

※2 図は何れも筆者のEDW2020 ビデオ講演で利用したものを抜粋している。(日本語表現に訂正して掲載)

[投稿者]中岡 実(インフオラボ游悠 代表/データマネジメントコンサルタント、ITコーディネータ、PMP、認定心理士)