DXは「保守的な考え」から生まれる

今日は、「DXは革新ではなく保守である」というお話をする。 ここで言う保守とは保守運用の保守ではなく、あくまで保守的な考えや姿勢ということである。

え?DXは革新的なことを追求する考え方ではないの?と思う方も多いと思う。

それに答える前に、そもそも革新とは何か、保守とは何かということをはっきりさせないといけないのだが、世の中には様々な定義があり困ってしまう。そこで誠に勝手ながら私なりの解釈を業務に当てはめることとする。ご容赦願いたい。

革新:
今やっていること、即ち今の業務遂行方法をガラッと変える。新しい「革新的な」製品ややり方を生み出す。市場の価値観を変える。などなど。
保守:
伝統的な価値を重視し、本当の意味や価値を追求する。今のやり方が良ければそれを踏襲する。違和感があれば変えてみる。

どうだろうか。こう書くとDXがひょっとしたら保守に近いのではないかと思い始めないだろうか(笑。まだまだしっくりこない方は続けて読み進めてほしい。

私が「DXが保守」という時に頭に浮かぶ重要なキーワードは、「価値」である。価値とは人間にとって、お客様にとって、環境や地球にとっての価値を指す。逆に今まで「価値があると思っていた」対象には実は価値がないことを発見したときに、おそらく人生は変わるし、市場も変わる。

よい例は株式市場や不動産である。

最近のニュースで、中国の不動産大手・中国恒大集団が巨額の負債を抱え、経営危機に陥っていることが報じられている。負債が30兆円を超えるまでなぜ金融機関やサプライヤーはこの会社を信頼してきたのか不思議になる。日本人の年金基金もここに投資している。もちろんこれに限らずリーマンショック、通貨危機も、信じていたものに裏切られたという意味では同じだろう。

人や市場は何を信じ、何に価値を見出すのか。非常に深く難しい問題である。悲しいことに今日の価値は明日のゴミかもしれない。

しかしいつの時代でも変わらないこと。それは「人間」にとって常に 大事なことでで、人間が持つ根本的な価値観、おそらく「人類」が生まれてから一度も変わっていないものである。

それを見失ってはいけない。

このこととDXには大いに関係がある。DXとは一見新しい価値を創造するように思えて、実は忘れられていた価値、勘違いしていた価値、操作されていた価値に対するアンチテーゼに過ぎない。今あなたが欲しいのは本当にこれですか?という「今思い込んでいる」価値に対する挑戦状である。

他の言い方をすれば、DXを推進する中で、今なぜこれに価値があると思っているのか、本当にこれに価値があるのか、なぜこの仕事をしているのか、という問いに答えていかなければならない。自問自答を繰り返すのだ。

それでは、それに答えるために何が必要なのか。実は技術でもなくスキルでもなく、正直さと勇気である。

ひょっとしたら現状を冷静に受け入れることが怖いかもしれない。見て見ないフリをしたくなるかもしれない。 それでも対象を真正面から見なければ答えは見つからない。

ここまで、データマネジメントと全く関係のない話をしてきた。ただデータマネジメントはそもそもデータの業務価値を高めるためのものであり、「価値の追求」という意味では同じである。人間や市場が求める「本来の価値」やデータが持つ「潜在的な価値」を見出して、それを再発見し活用する。これが私が冒頭で述べたある意味「保守の姿勢」と重なるのである。

【次回予告】
現状を冷静に分析し問い詰めるのに何も技術を使わないかというと、データモデリングという手法を使う。いきなりデータモデルが登場したが、私の会社ではデータモデリングを通して多くのDXが起きつつある。次回はデータモデリングからDXを起こす事例をご紹介する。

デジタル・トランスフォーメーション(DX)とデータ・マネジメント(DM)③

今回は、Transformationのお話です。
またまた英語の語源からですが、Transformationは、Trans+Formの合成語です。
https://www.etymonline.com/word/transform#etymonline_v_16881 には、以下のように書かれています。
mid-14c., “change the form of” (transitive), from Old French transformer (14c.), from Latin transformare “change in shape, metamorphose,” from trans “across, beyond” (see trans-) + formare “to form” (see form (v.)). Intransitive sense “undergo a change of form” is from 1590s. Related: Transformedtransforming.
要は、Formを変えること、Formとは形や様式ということです。

ちなみに、語源という意味では、Dataの成り立ちは以下です。

つまりラテン語で与えるもの、もしくは与えられるものであり、事実や既成のものという意味ですね。ちなみに、Dataの単数形がDatumですから、DataはPeopleのように複数形として扱うのが正式とのことです(英語圏でも随分議論がありますが)

はい、失礼しました。Transformation話でしたが、DMBOKでこのことにかなり迫っているのが、第17章のChange Management(変革管理)です。2018年のADMCでも取り上げましたが、この章では以下がポイントだと思っています。

一番陥りやすいミスは以下のようなものでしょうか。
まず、変革は「人」から始まるということに真っ向から挑戦しるのが以下の発言です。
◆ DXには予算をいくら取ればいいのか計算しろ
◆ DXをやるにはまず組織を作らなければ
◆ DXをやってくれるITベンダーを連れてこい
◆ DXができるソフトウェアを調達しろ、予算は取ったから
◆ 日本をデジタル化するぞ、そう「デジタル庁をつくればいいのだ」(笑

次に斜めに構えている人が言う言葉として・・・
◆ DXなんてどうせまたITベンダーが作ったBuzz Wordだから、やっている振りだけしておこう
◆ うちの会社は昔からDXはやっているよ。PC入れたのも早かったしね
◆ うちの会社は伝統を大切にする、DXはうちには合わないよ
◆ 書類を全部ScanしてDX・・・という古いジョークは忘れましょ(汗

余談ですが、世の中には変わらなくてもいいことが不自然に変わることがあります。例えば、
◆コンビニでビニール袋をくれなくなった(特に日本ではこれが地球温暖化を防ぐのにほぼ何の役にも立たない。つまる単なる値上げ)
◆ そもそも日本の水道水は一番安全なのに、なぜかミネラルウォーターを買うようになった
◆ (ここは賛否両論ありますが)喫煙人口が激減したのに肺がんは減らない?? ただ・・・人に迷惑をかけてはいけないので非喫煙者の前では吸わないように(汗
◆ ゴミの分別が余計にコストがかかるって知ってました?

ちなみに上に上げた変革を起こすのには莫大なマーケティング戦略、洗脳、プロパガンダが必要でしたけど。 こんな変化を起こせるなら、Digital Transformationも簡単ですねー。

一方で、Backward Compatibilityという言葉があります。ITの方はよく知っていると思いますが、ソフトウェアのバージョンが上がっても、昔書いたソフトは依然としてそのまま走るということ。特にMicrosoftはこのコンセプトを重視してきました。Windowsのバージョンが上がっても昔のソフトはそのまま走る。

皆さんお気づきのように、いくら何でも20年前のソフトは走らないよねー。ただ世の中のTransformationはもっと遅く、Backward Compatibilityに従っているようです。JR(昔の国鉄・・・知ってました?)でSuicaがメジャーになった今も切符をまだ買えますよね。コンビニでスマホ決済ではなくて現金でモノが買えますよね。

私に真面目にTransformationとは何かを言わせると、それは「脱皮」だと思います。昆虫などは一生の内にでも脱皮しますが、 生物は何世代にもわたって進化します。多くの場合は、Backward Compatibilityは保たれないようです。つまり、いったん蝶になった幼虫のようには生きられないし、人間はもう水の中では呼吸できないですよね。

DMBOKの第17章でも、人々に変革についてきてほしいのなら、戻り道をふさぐことだと書いてあります。つまりBackward Compatibilityへの道を断つということですね。

でも駅で切符が買えなくたったらどうしたらいいかわからないなー。