デジタルノートツール/PKMとデータマネジメント

デジタルノートツールについて

皆さん、デジタルノートツールは使っていますでしょうか?
具体的にはEvernoteやNotionといったツール・サービスで、基本的にはテキストエディタの延長であるものの、 クラウド上のデータに異なる端末からアクセス可能であったり、タグ付けなどの分類方法が発達していたりします。PKM(Personal Knowledge Mangement)ツールとも呼ばれることもあります。
用途は当然のことながら多岐にわたり、日々のタスクに関わるメモ、Webで見つけた記事の保管、などが含まれます。

筆者はこのあたりのツールやLifeHackなどが大好きなのですが、
この「個人の情報・知識の管理ツール」と「企業のデータのマネジメント」という2者に多くの類似性を感じており、 今回この場を借りて考察を記します。

どちらも広い意味では情報管理です。

結論を先に言っておきます。
・ここ数年でどちらも技術面(ツール)と運用・文化面(成熟度)の両面で大きく進化している
・ハコ(ツール)だけでなく運用が重要と認識されてきている
・情報は「活用できる状態に保つ」ことがポイント。集める・溜めるだけでは片手落ち
・情報を活用可能な状態するためのメタ情報管理と品質管理に一定の時間を割くべき

これらは個人の情報・知識管理・企業のデータマネジメント どちらにも共通して言えることです。

デジタルノートツールの変遷 ~ 蓄積に主眼を置いたツール

まずデジタルノートツールがどのような変遷を辿ったか、筆者の主観を多分に含みますがおさらいしましょう。

2010年頃にEvernoteというツールが登場しました。
全ての情報をここに蓄積しましょう! というコンセプトで、 様々な場所にあるデータを一元集約すべく、PCアプリ・スマホアプリ・ブラウザ等の様々なチャネルを持つこのツール は新しもの好きやLifeHackに興味がある方々にヒットし、多くのユーザを獲得しました。

筆者もToDoや買い物メモ、思考の記録、Web記事のクリップ、過去のテキスト などを せっせと集約してこのツールに流し込んでは悦に入っていたものです。

しかしながら、ノートの数が1000を超えたあたりから、徐々に管理不能・肥大化した状態となったと ストレスを感じるようになりました。
目の前に置いておくべき情報とアーカイブすべき情報の区別が難しくなり、
また少し前に読んだ/読もうとしたWEB記事を探すことに労力がかかるようになってしまいました。

もちろん検索機能や#Tag付け機能はあるのですが、Tagの数自体も増える一方で、Tag付けのルールも自分としての一貫性を保つことが困難になり、 半年くらいの前の情報となるとどう検索すべきかが直感的に分からなくなってしまったのです。
そして過去のノートの多くは、二度と再利用・活用されることのないゴミの山になってしまいました。

蓄積偏重のハコの限界

この状況には既視感があります。

まさにこれは企業ITにおいて、
「DataLakeへ・DataWareHouseへ、あらゆるデータを流し込み蓄積さえしておけば あとで素晴らしい分析・データ活用ができるはず!」

と言う一部のベンダーの謳い文句に乗ってハコモノを導入し、多くのデータを溜めてはみたものの、 いざ分析しようとするとどのデータを使ってよいか分からない・データの品質が確保できない、 といった昨今の状況に似ています。

当たり前ですが、玉石混淆の広大な地図の無いLakeから玉だけを取り出すのは至難の業です。 このあたりの失敗事例からも、データマネジメントの重要性が認識されてきたようにも思います。

デジタルノートツールの次の世代

話をツールに戻しますが、Evernoteでは自分と同様の難しさを感じたユーザは他にも多かったようで、 また必要以上の高機能化や性能問題により「重たいツール」だという印象をあたえたこと、課金戦略のまずさなどもあり、Evernoteは一定数のユーザを離反させてしまいました。 (とはいえ、まだ多くのファンをもつツールであることは変わりありません)

その後、次の世代のデジタルノートツール群が台頭してきました。

アウトラインエディタ

一つにはDynalist、Workflowyなど、アウトラインエディタ・ アウトライナーと呼ばれる階層的にテキストを管理ができるツールが挙げられます。
例えば、

〇 XXに関するご提案
 -提案の背景
  ・昨今のxx業界のニーズの変化
  ・海外競合他社の進化
 -ご提案の骨子
  ・hoge hoge

といった形で階層構造で情報を管理します。アウトラインエディタ自体は目新しいものではないですが、項目ごとのリンク機能、タグ付け機能など、統合的に情報を管理する機能をもつサービスが登場してきました。

人気ツール Notion

現在日本で最も流行しているのはNotion というツールでしょうか。
アウトライナー機能に加え、さらにRelational Database機能を持つツールで、 各自のカスタマイズ次第で様々な情報を管理することが出来ます。

例えばプロジェクトの進捗やタスク管理をしようとした場合、

[プロジェクト] 1—N [中間ゴール] 1—N [タスク]

のようなリレーションをもつテーブル群を作成し、そのレコードに個々のタスクの内容に関するアウトライン形式のテキストを紐づけて管理することも出来ます。

無料版でかなりの事ができますし、オンライン上でRDBが無料で使えるのは素晴らしいことです。ここではこれ以上は述べませんが興味がある方はWebやYoutubeで検索してみてください。

筆者の使うツールとその情報アーキテクチャ

Wiki型の情報管理ツール Obsidian

筆者は上記のNotionやいくつかのツール(RoamReserch、Dynalist、GoogleKeepなど)を使った結果、 Obsidianというツールにたどり着きました。

Obsidianは情報管理のアーキテクチャーが優れていること、ツールだけでなく情報管理の方法論とそれをブラシュアップする活発なコミュニティ(主に海外)が存在することが採択の理由です。

特徴としては、Markdownエディタであり、かつWikiのような形式でノート群を管理できるツールです。
すなわちディレクトリ型管理ではなくネットワーク型管理であり、個々のぺージから他のページにリンクし、相互関係を管理します。

ツールの設計思想と運用の方法論

ツールの設計思想の背景にはドイツのZettelkastenというカード式の情報管理があります。日本の京大式カードに似たものです。
https://gigazine.net/news/20200604-zettelkasten-note/

またさらにPKM(personal knowledge management)という名前で、Zettelkastenを拡張する形での、個人の情報・知識管理の方法論が提唱・議論され、ツールの進化と足並みを揃えて成熟を続けています。

ざっとそれらの内容を紹介しておきますと以下のような原則が設けられています。

  • Dailyで書くノートと、蓄積しメンテし続けるノートは区別する。
  • 一つのノートには一つの概念を記載する(Atomic)
  • タイトルと概要は 自分の言葉で記載する(コピペ・Clipしない)
  • インデックスページ(MOC:Map of contents)を作る。
  • ノートは内容やリンクを定期的に見直す、必要なメタタグを付与する。
  • メンテされた状態を保つ、Evergreen Notes(常緑のノート群)という原則
  • https://notes.andymatuschak.org/Evergreen_notes?stackedNotes=z2HUE4ABbQjUNjrNemvkTCsLa1LPDRuwh1tXC

これらの原則を守れば、多量・長期間 という情報にとっての天敵に太刀打ちできるということです。

個人の情報/知識管理と企業データマネジメントの類似性

まとめますと、現在のデジタルノートツールとPKMなどの方法論で語られていることは以下の通りです。

  • 情報のアーキテクチャを定める
  • 情報の作成・収集 → 精査・移動 → 蓄積 →活用 といったプロセスを管理する
  • 情報自身のメタ情報を管理する
  • 情報の品質を管理する

どこかで見たような内容ではないでしょうか?
そう、DMBOKの記載内容に非常に類似しています。

これは結局 「情報の資産価値を高める」という主題にフォーカスすると、そのプロセスや仕組みが 似たものになることだと思います。

筆者はこれらの領域が、メタデータ管理あたりを皮切りにどこかで直接的に交わり、そして日本でも議論が出来る日が来るのが近いのではと考えています。
ご興味を持たれた方は、情報氾濫社会を乗り切るべく、どうぞこれらツールを使用してみてください。大部分は無料です。そして是非、情報管理のあるべき姿について意見交換させて頂ければと思います。