ITベンダーとの関係を考える

 データマネジメントを始めるのに、「データモデリングから始めませんか?」というお話をし、その次に「データモデラーのお噺」と続けました。

 では、 データモデラーが居れば、或いは獲得すれば、すぐにデータマネジメントが始められるのでしょうか?その前にもう少しやっておきたいことがあります。
 データマネジメント自体が、業務部門の人とIT部門の人が一緒になって行う企業活動であることはDMBOKに記載されています。

 ここでは、データマネジメントに始まり、情報システムの開発(もちろん再構築を含みます)に至る話を書いていきます。

企業とITベンダー(古いスタイル)

  これまで少なくない企業で、情報システム部門、或いは情報システム子会社が次のような形での発注を行い、システムを構築して来ました。ITベンダーも様々ですが、こちらでは主にシステムインテグレータ(SIer)を指しています。

  • 企業内では、業務部門からの要望を情報システム部門が取りまとめ、これらを要求事項としてITベンダーに発注を行っていました。
  • ITベンダーでは、これらから対象となる業務の単位を一つの機能として設計し、機能ごとにプログラムを作成します。
  • この際、主に「業務フロー」が用いられ、ビジネスレベルでのデータモデリングが行われることは稀なようです。
  • ITベンダーから、二次受け、三次受け、など多重請負が様々な問題を起こしてきたことは知られています。
  • 発注した企業側は、完成したシステムの納品を受け、受け入れテストとして、実際の業務が行えるかという視点で検証を行います。この時点で、データがどうなるかという点においては、過去のデータが継続して使えるか以上の関心が持たれることは少なかったようです。
  • 実際には、納品時点で機能が足りない、仕様に齟齬がある、移行したはずのデータに問題が発生するなどの不具合を沢山見てきました。

実際には、このようにIT部門が要望を纏めて発注を行ってくる形態の場合でも、データモデリングを行い、既存システムがあるならデータプロファイリングを行うなど、業務上の情報の構造と実際のデータによる可視化を進めれば問題は相当に小さくなり、いわゆる凝集度が高く結合度が低い、改修が容易なシステム構築を行うことは可能です。しかしながら、その場合でもIT部門だけではなく、業務部門の方の協力が必要です。
 それでも、複数のシステム間の問題を解決するためには、データマネジメントによる全体の調整が必要です。

企業とITベンダー(新しいスタイル)

 企業内でデータマナジメントを実践するには、何らかの形でそれを推進する組織が必要です。

専任かバーチャルかなど、その形は企業により、その段階により様々になると思いますが、業務部門の人、つまり業務のエキスパートの方と、情報システム部門の人からなる組織を形成します。
 ここでデータ要件の定義やアーキテクチャの定義から、データ品質のマネジメントや、データ統合やBIなどを担っていきます。これまでITベンダーに依存してきた多くのことを自社内で担っていくことになります。
 これまでに持っていなかったスキルが必要になる部分や、先ずは組織化を行っていく部分については、外部コンサルからの支援を受けて実現するのが有効です。プログラム開発のパワーが不足する部分は、外部プログラマを利用する形になります。
 既存のシステムの維持なども含めて、もちろん一気にこの形に変更するのは難しいと思います。しかしながら、一部からでもこちらの形に変えていかないと、これまでと状況が変わりません。
 まずは、現在依頼しているITベンダーに対して、このような形に変革していくこと、この外部パワー部分を担えるなら役割を変えていくことを検討してみましょう。現行のITベンダーでは、特に組織化の支援が担えないような場合は、その部分に別途専門のコンサルを導入することが必要となります。
 データの発生源となる部署、データを利用する部署、情報部門システムから人を出して検討を始めるグループを作るような形で始めても良いでしょう。最初は、情報システムが主導する形になることが多いでしょう。或いは利活用の要求が先行する場合なら、その対象の業務部門が中心となって進めた方が良いかも知れません。

 ともかく、実際に活動を始めるにはどうしたら良いのか、自社でできていることは何で、何が必要なのかわからないという方、DAMA日本支部に参加して、いろいろな分科会に参加してみてはいかがでしょうか?

情報通信白書2020年版の紹介

毎年刊行されている情報通信白書の令和2年版が8月から公開されています。

今回は、その概要について特にデータとの関連を中心に紹介します。

― 目次  ―

第1部  5Gが促すデジタル変革と新たな日常の構築

はじめに

第1章 令和時代における基盤としての5G

第1節    新たな価値を創出する移動通信システム

第2節    5Gの実現・普及に向けて

第3節    5Gをめぐる各国の動向

第4節    5Gが変えるICT産業の構造

第2章 5Gがもたらす社会全体のデジタル化

第1節    我が国が抱える課題と課題解決手段としてのICT

第2節    2020年に向けたデジタル化の動き

第3節    新型コロナウイルス感染症が社会にもたらす影響

第4節    5Gが促す産業のワイヤレス化

第3章 5G時代を支えるデータ流通とセキュリティ

第1節    5Gが加速させるデータ流通

第2節    デジタルデータ活用の現状と課題

第3節    パーソナルデータ活用の今後

第4節    5G時代のサイバーセキュリティ

第4章 5Gのその先へ

第1節    2030年代の我が国のデジタル経済・社会の将来像

第2節    Beyond 5G の実現に向けて

(第2部は、基本データと政策動向なので省きます。下記をご覧ください。)

https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/r02/pdf/index.html)

昨年度は、「Society 5.0」がメインテーマでしたが、今年度版は、ご覧の通り5Gを中心にその浸透とデジタル化の進展が並行して説明されています。

はじめに」では、今年のCOVID19の感染拡大下でデジタル環境を利用せざるを得ない状況となり否応なくデジタルインフラに移行していく実態が描かれています。

デジタル化が進むのは一見良さそうに見えますが、システム化計画の無い中での局所的なデジタル化によってっ将来的な情報インフラに悪影響を及ぼしかねないことが無ければよいのですが。

第3章は、「5G時代を支えるデータ流通とセキュリティ」と題してデータとの関連で俯瞰しているので覗いてみました。

第2節 デジタルデータ活用の現状と課題」の「1 日本におけるデジタルデータ活用の現状」では、

ア 「データ活用の現状」で、『図表3-2-1-1分析に活用しているデータ』を参照し、『5年前に実施した調査と比較して、POS やeコマースによる販売記録、MtoM データを含む自動取得データの活用が大きく進展しており、各企業におけるIoTの導入が進んでいることがうかがえる』としています。

また、データ活用の割合はやはり中小企業と比べて大企業の方が大きく、データ活用は資本規模の小さい中小企業にとって有利という見方は、そうでもなかったということでしょうか?

イ 「デジタル・トランスフォーメーションの取組」では、『ICT化に関連する業務慣行の改善について尋ねたところ、「社内業務のペーパーレス化」が最も選択された。一方で直近3年以内に実施した取組を尋ねると「テレワーク、Web会議などを活用した柔軟な働き方の促進」が最も多かった。』と記されており、DXの本格的な取り組みはまだこれからというところのようです。

興味深いのは、「データに基づく経営」図でCDOを設置している企業が30%以上もあることです。また、『「データ分析人材の採用」、「データ活用戦略の策定」、「データ分析に基づいた経営判断の実施」を挙げた企業が4割程度あり』、総じて経営戦略・判断にデータを活かしていこうという意識は高まっているようです。

その一方、ウ 『今後のデータ活用の見通し』では、『今後もデータを活用していきたい』という領域が3割程度ある一方で、『今後もデータを活用していく予定はない』、という領域が35.7%~51.4%もある、という結果が出ています。この辺の意識についてはもう少し深く掘り下げてほしいところです。

データ活用という観点では、GAFAといわれるいわゆる情報プラットフォーム企業に大きく市場を奪われている現状で、今後日本企業がどう巻き返していくのか期待したいものです。

本情報通信白書は、日本の情報通信産業の現状を幅広く俯瞰的に捉えたものであり、ハード/通信よりの色合いが強いとも思えますが、日本の情報産業全般を鳥瞰するには良い資料と思えます。既にご覧の方もおられるでしょうが、大部ではありますがご興味があれば一読してみてください。

DMBOK第2版 第2章 「データ取扱倫理」は読む価値があるのか!?

DMBOK第2版では第1版からいくつかの章が追加されているが、その中の一つで際立っているのが「第2章 データ取扱倫理」である。この章は、データセキュリティ以前にデータマネジメントを行う上で守るべき倫理的概念や、非倫理的データの扱いの例が説明されており、 GDPR (General Data Protection Regulation: EU一般データ保護規則) をはじめとする各国の関連する法律にも言及している。
知識領域でもなく、新しい概念でもない、他とは異彩を放つ第2章。この章が追加された意義は何なのか、筆者の考えを述べたい。

第2章は データマネジメント会員規約?

いきなり話が変わるが、例えば皆さんが何らかのクラブ有料会員になる時にどのようなステップを踏むであろう? 通常は

 1.クラブ有料会員の概要を説明資料等で理解する
 2.会員申請し承認を得る。
  その際に「会員規約を読み、同意するサインを行う」
 3.会員として参加する

であろう。ところで皆さんは「同意するサインを行う」際にちゃんと会員規約を読んでいるであろうか?
多くの人は何も読まずにサイン(チェックボックスにチェック)してしまうのではないだろうか?

ところがこれが会員規約ではなく、数百億円の契約書の「契約条件」の場合はどうであろうか?おそらく目を皿のようにして確認するのではないか?

筆者はDMBOK 第2版 の「第2章 データ取扱倫理」はデータマネジメントにおける「会員規約」もしくは「契約条件」にあたるものと理解している。すなわち

 1.第1章でデータマネジメント概要を理解する
 2.第2章でデータマネジメントの「会員規約/契約条件」を理解する
 3.その上で、第3章以降のデータマネジメントを実践する

第2章を読む必要性

筆者の理解が正しいとすると、追加になったこの第2章を読む必要はあるのだろうか?それは以下のように考える

 1) データマネジメントを学びたい、DMBOKを理解したい
  → 第2章は無理して読む必要はない。
   先に第3章以降の興味のある章を読むべし≒「会員規約」
 2) データマネジメント組織を創りDMBOKベースでデータマネジメントを
  実践したい
  →第2章はしっかり読むべし≒「契約条件」

このように考えると、この章が最終章ではなく、第2章に位置付けられている意味も理解できる気がする。

それでも第2章は興味深い

上記の 1) の場合は「無理して読む必要はない」と言いながら、ひとこと付け加えさせていただくと、この章に書いてあることが決して面白くないという意味ではない。むしろ、この章にはデータマネジメントにとどまらず、一般的な話として興味深い内容が盛りだくさんとも言える。特に「3.4 非倫理的なデータ取扱業務のリスク」に関しては、非倫理的なデータ取扱の例が記載されており、自分自身が「あの時はデータに騙されてしまった!」や、逆に「あの時は、ちょっと悪さをして騙そうとしてしまったなあ」といった苦い思い出が蘇ってきたりもする。
この話はまた機会があればお伝えしたいと思う。

DXと用語の定義

DXについて多くが語られています。DXを進めて行くとはどういうことなんでしょう。いろいろなレポートを読んでも今まで今一つ腹落ちしませんでした。それが急にDXを推進することになった会社のガイドを見て、さらに先日のADMCの講演を聞いてストンと腹落ちしました。

DXの推進にはいくつかのステップがあるがDX1.0が大事である、すなわちそれは、顧客の価値を再定義し、デジタルソリューションの適用範囲を定め、全体を管理するKPIを設定する。データはこのデジタルソリューションとKPIに使われる。

デジタルソリューションとは何か?CJさんによればPython codeを書いて未来を予測できること(人達)。大量データを瞬時に読込み・組み換えとかもありますね。生産計画とかに使えそうです。

この次は何か。それは繋がること。今までの責任分界点を超えて繋がること。これにより今まで絵空事だった例えばグローバルSCMの最適化、なんてことがスコープに入ってくる。責任分界点を超えるとは、法人の中では機能組織の間でしょうし、製造・販売が分かれていればそれは法人間を超えて繋がることだと思います。

その時、何が起こるのか。今までは責任分界の中で自分最適で自分のシステムと仕事をしていれば良かったけど、今度は責任分界を超えてより大きな責任分界で最適化するために異なるシステムのデータを繋いでいく必要が生じる。今までは人間系で悠長に(月次?週次?日次?)翻訳しながら回していたけど、デジタルソリューションはリアルタイムにトランザクション毎に処理して行く?のでこのままだとデータが衝突してしまう。

残念ながら各所のシステムはこの意味で標準化されていないのです。世の中には標準化されている(いわゆるワンインスタンス)企業も数多あるとは思いますが、これが現実だ。データとデータをマッピングしながらデジタルソリューションを適用していかなければならない。CJさんとホバーマンさんの講演は一つ一つ私の胸に刺さりました。

デジタルソリューションから見て責任分界を再編することは、かつてBPRで多くの企業が討ち死にしたことを思い起こします。でもそれは例えばSCMの神の手を得るために必要なことだと思うけど、大丈夫かな?

DXと騒いでいるけど、多少未来が予測できるようになるかも知れないが、やるべきであったのに今までやれなかったことをやり通すことも、大きな割合を占めているように感じます。

やっぱり先ずは業務用語集とデータディクショナリーで今流に言えばデータカタログからかな。